ベートーヴェン
交響曲第九番 ニ短調 作品125「合唱付き」

1822年に大曲ミサ・ソレニムスを完成すると、ベートーヴェンは積極的に交響曲の作曲に向かうことになった。
しかし当時は2つのプランがあったようである。
1つは純器楽だけのニ短調交響曲、そしてもう1つは「ドイツ交響曲」と呼ばれる合唱付きのものである。
ベートーヴェンは2つのプランを並行して進める予定だったが、結局2つの交響曲のアイデアを1つにして第九交響曲が生まれたのだった。

この交響曲は第八交響曲から10年という隔たりもさることながら、これまでの彼自身の交響曲から内容的にも一段と飛躍した感がある。
後期のピアノソナタや弦楽四重奏曲などにもいえることだが、非常に強い精神的かつ神秘的な雰囲気をもち、誰にも足を踏み入れる事が出来ない生地の様な完成度を持っている。
まるであの有名なミケランジェロの壁画「天地創造」のような。

そして、この曲を演奏することは人間の最大の喜びの一つであり、聴く者にとっても偉大な体験の一つとなるであろう。

第1楽章 ― アレグロ・マ・ノン・トロッポ・ウンポコ・マエストーソ
ホルン、ヴァイオリン、チェロの非常に調性の不安定な和音に始まりそれにヴァイオリンの主題の断片がまとわりつくというカオス的な開始が次第に盛り上がり、ニ短調で爆発する。
そして長大な展開部を経て再現部へ続き、あの有名なうごめくような(ベルリオーズが「まさに魂を捉え、これ以上ないほどに深く悲劇的」と呼んだ)コーダが続く。
第2楽章 ― スケルツォ
ティンパニの使い方の特徴のあるこのスケルツォは中間部に田舎の踊りのようなトリオを持つ。
そして二度目の亡霊のようなトリオが現れ、激しく終わる。
第3楽章 ― アダージョ・モルト・エ・カンタービレ
この天上の音楽を奏でる楽章は後期の弦楽四重奏曲(例えば作品132の第3楽章)などと共通した敬虔な祈りの音楽である。
まるで天使たちが飛びかい浄化された人々がそれとともに天上に昇っていく様子が目に浮かぶようである。
最後の方に高らかにトランペットが鳴り響いて第4楽章の歓喜が準備される。
第4楽章 ― プレスト・アレグロアッサイ
まず、まるで神の審判が下ったような激しいトゥッティ(全合奏)に始まり壮大なドラマが展開される。
この楽章のテーマは、第3楽章の宗教的なテーマと違い人間の喜びであり、常にそこに回帰する。
あたかも全ての人間が両手を広げて降り注ぐ歓喜の光を享受しているようである。
pagetop
inserted by FC2 system