第29回 相模原市民合同演奏会

チャイコフスキー バレエ音楽「くるみ割り人形」op.71

29th合同パンフレットチャイコフスキーのバレエ「くるみ割り人形」は、1815年に書かれたドイツの作家ホフマンの童話「くるみ割り人形とはつかねずみ」を原作に、フランスの文豪デュマが翻案脚色、振付師のプティパが2幕3場のバレエに構成したものです。

劇場から台本を受け取り作曲し始めたものの、すでに名声を得ていたチャイコフスキーは多忙であまりはかどりませんでした。
そんな中、演奏旅行でアメリカに向かう途中のパリで、発明されて5年目のチェレスタに出会います。
ピアノとグロッケンシュピールを合わせたような鍵盤楽器で、ロシアでは全く知られていないこの楽器を早速このバレエに使用し、十二分に発揮させたのでした。

全曲を通じて、チャイコフスキー独特の暗い影は見られず、フランスの民謡や俗謡を巧みに引用しながら、終始明るく和やかな気分にあふれています。
また、童話的世界もしっかりと描かれ、繊細で独創的な手法で描きだされた、チャイコフスキー円熟期の優れた作品となっています。

本日は第2幕第3場を全曲お送りいたします。

第2幕 第3場

第10曲 情景(砂糖の山の魔法の城)
ハープのアルペッジョ(分散和音)にのってヴァイオリンとフルートが幸福にあふれた主題を奏でます。
第1幕で、クリスマスイブの夜にプレゼントされたくるみ割り人形と、夢の中の魔法の世界にやってきたクララが、いよいよ魔法の城・お菓子の国にたどり着くところから第2幕は始まります。
第11曲 情景(クララと王子)
クララと、くるみ割り人形が姿を変えた凛々しい王子は、バラ色の氷の川を金の舟でやってきます。
エメラルドやルビーの小姓たちが客人を迎え、女王やこんぺいとうの精などが出迎えます。
王子はクララを女王に紹介し、命の恩人であると語るとファンファーレが鳴り響き、クララを歓迎するお菓子の国の饗宴が始まります。
第12曲 ディヴェルティメント
a. チョコレート(スペインの踊り)
スペイン舞踏のボレロで、導入部の後、トランペットが主旋律を歌います。
b. コーヒー(アラビアの踊り)
東洋風なダンスのアラビア舞踏で、元はグルジア地方の子守歌でした。
弱音器をつけたヴィオラとチェロが奏でる太鼓のリズムに乗って、イングリッシュホルンとクラリネット、そして弱音器をつけたヴァイオリンが主旋律を歌います。
c. お茶(中国の踊り)
愛らしいコミカルな踊りで、ファゴットとコントラバスの単調なリズムにのってフルートが特徴のある軽快な旋律を奏でます。
d. トレパーク
ロシア農民の踊りトレパークが勇壮に踊られます。
エネルギッシュな跳躍を見せる力強い旋律がヴァイオリンに現れ、繰り返されます。
後半は急テンポとなって疾風のように圧倒的迫力で曲を結びます。
e. あし笛の踊り
アーモンド菓子の女羊飼いがあし笛を吹いて踊る場面です。
3本のフルートが清新な主題を奏でます。
ニ短調から中間部は嬰ヘ短調に転じ、金管楽器が新しい主題を奏します。
f. ジゴーニュおばさんとピエロ
靴に住む老婦人が大勢の子供たちと踊ります。
タンブリンの明るいリズムに乗ってヴァイオリンの主題が現れます。
中間部はピエロが踊る様子を巧みに描いています。
チャイコフスキーが幼少時に愛唱したフランスの童謡3曲が用いられています。
第13曲 花のワルツ
こんぺいとうの精の侍女たち24名が華麗に踊る場面で、単独でもよく演奏される曲です。
管楽器の序奏に始まり、ハープのカデンツァの導入句を経てホルンが主題を奏でます。
第14曲 パ・ド・ドゥー
・序奏
ハープのカデンツァによる導入部の後、チェロが力強い愛情のこもった歓喜の主題をのびやかに歌います。
中間部はクラリネットの抒情的な主題が哀調を帯び、トロンボーンが再び主題で包み込みます。
・ヴァリエーション1:タランテラ
くるみ割り人形の王子が南イタリアのタランテラの独舞を踊ります。
男性にふさわしい、派手で勇壮な踊りと音楽です。
・ヴァリエーション2:こんぺい糖の精の踊り
こんぺいとうの精の独舞の場面です。
4小節の弦楽のピッツィカートにのってチェレスタが主旋律を奏でます。
バスクラリネットが対話風にかけあって、夢幻的な曲想をさらに魅力的にしています。
・コーダ
女王と王子が踊ります。
快活な希望に満ちたコーダで、いかにも華やかなグラン・パ・ド・ドゥーの終曲にふさわしい気品と優美さに満ちた音楽です。
第15曲 終わりのワルツと大詰め
全員が明るく賑やかに踊ります。
ワルツのリズムで主題が奏でられるとやがて弦のピッツィカートにのって木管楽器が中間部を奏し、チェレスタとハープの部分を経て再び主題が再現されます。
やがて明るく希望に満ちた第10曲の主題が現れます。王冠をかぶったクララはお菓子の国の人々から祝福されて幸せに酔います。チェレスタの神秘的な響きが色彩を添える中、絢爛たるうちに幻想的なバレエは幕を閉じます。

参考文献:音楽之友社「作曲家別 名曲解説ライブラリー」

モーツァルト 戴冠式ミサ

「戴冠式ミサ」は、1779年3月23日にザルツブルグで完成されました。
モーツァルトがパリ及びマンハイムでの徒労に終わった就職活動に挫折してザルツブルグに帰ってきたばかりの頃でした。
彼の父レオポルドは、すぐに彼のためにザルツブルグ大聖堂のオルガン奏者兼作曲家の職を準備しました。
このミサ曲は、1770年4月4日の復活祭の祝日において、この大聖堂で初演されました。

「戴冠式」と呼ばれるようになった理由についてはこれまで諸説が伝えられています。
ザルツブルグ近郊のマリア・プレインにある教会に納められた奇跡的に火災から免れた聖母子像に対して、1744年にザルツブルグに人々が戴冠を行ったのですが、1751年にローマ教皇が改めて戴冠式を執り行ない、これ以降毎年見さが奉献されるようになりました。
1770年のこの奉献のためにモーツァルトが作曲したのがこの曲であるという説が長い間定着していました。
その後の説では最初はタイトルのないミサ曲でしたが、1790年のレオポルド2世のプラハにおける戴冠式で演奏されたことで「戴冠式」と呼ばれるようになったとされていました。
現在ではこれも信憑性がなく、このミサ曲が「戴冠式」と呼ばれるようになったのは、19世紀初頭のウィーン王宮でのことではないかとされています。

作曲様式は当時の大司教が好んだ、荘厳ミサ的な大規模な管楽器の構成と小ミサ曲並みの短さを併せ持つものです。
したがって、壮大な式典的な構成とともにコンパクトな構造を持つミサ曲となりました。
その短さのゆえに、モーツァルトは通常グロリアとクレドを締めくくるフーガを省略しています。
なお、楽器編成についてはザルツブルグの伝統的な技法に沿っており、特に当時の教会ではビオラを省略するという風習をそのまま踏襲しています。

  1. Kyrie

    「Kyrie」は「主よ」という意味のギリシャ語。

    合唱の「Kyrie」から曲が始まります。やがてテンポが速くなり、ソプラノ・ソロが入ってきて、旋律的な調べを歌います。テノール・ソロも加わり掛け合いを行い、また、冒頭の部分が戻ってきて、荘厳な雰囲気で曲が閉じられます。

  2. Gloria

    「Gloria」はラテン語の「栄光」。神の栄光を称える賛歌。

    合唱の「Gloria」で始まり、続いてソプラノ・ソロが、オーボエとヴァイオリン2部の伴奏を伴って歌います。その後も独唱と合唱が交替しながら進みます。その後、冒頭の合唱が再現されます。最後は、「アーメン」と独唱および合唱が歌って華々しく曲が結ばれます。

  3. Credo

    「Credo」はラテン語で「信じる」。信仰宣言あるいは信条告白といわれる賛歌。

    激しい序奏に導かれ、合唱が「Credo in unum Deum」を歌いはじめますが、管弦楽の激しい伴奏はこの間も続き合唱とのアンサンブルをきかせます。
    その後、フーガ様式の部分が続きます。アダージョで短調になり、美しい4重唱の楽曲が展開されます。
    前半のハ長調の部分が再現され、ソプラノのソロも加わり、最後は「アーメン」が繰り返され、激しく曲を閉じます。

  4. Sanctus

    「Sanctus」はラテン語で「聖なるかな」。神への感謝を捧げ、その栄光を称える賛歌。

    堂々とした全管弦楽の伴奏のうえに合唱が歌い通される壮麗な曲です。
    途中でテンポが変わり、「Hosanna」が高らかに歌われます。

  5. Benedictus

    「Benedictus」はラテン語で「祝福の賛歌」。

    まず、穏やかな前奏があります。一瞬、宗教曲だということを忘れてしまうほど、モーツァルトらしいメロディです。
    その後、4人のソロによる歌が続きます。続いて「Sanctus」で歌われた「Hosanna」が現れ、また「Benedictus」が戻り、最後に「Hosanna」がコーダ風に締めくくります。

  6. Agnus Dei

    「Agnus Dei」はラテン語で「神の子羊」。平和を祈る賛歌。

    ここにも前奏が置かれていますが、オーボエのソロが伴います。ソプラノ・ソロが歌い出す旋律は、歌劇「フィガロの結婚」の伯爵夫人のアリア「楽しい思い出はどこへ」に非常によく似ています。
    「miserere nobis」と歌われる部分をはさんで、再び「Agnus Dei」が少し形を変えて戻ってきます。その後、テンポが少し早くなり、第1曲目の「Kyrie」のソプラノソロで歌われた旋律が再現します。
    次第に盛り上がりをみせ、最後は、壮大な合唱で全曲が力強く結ばれます。

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