平成21年度 市民プロムナードコンサート~映画を彩るオーケストラの響き~
第1部「映画の中のクラシック音楽」
映画「アマデウス」よりモーツァルト:交響曲第25番ト短調 作品183より 第1楽章
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは有名なクラシック音楽の作曲家の一人です。
ハイドン、ベートーヴェンらとともに「古典派」と呼ばれています。
交響曲第25番ト短調はモーツァルトが17歳のときに作曲され、第40番のト短調交響曲に対して、小ト短調とも呼ばれます。
なお、モーツァルトの交響曲のうち、短調で書かれているのはこの2つのト短調交響曲のみです。
この時代にしては珍しくホルンを4本用いていますが、これはホルンの本数を増やして響きを豊かにする他に、当時は管楽器の種類が少なく、そのホルンも短調の曲では出せる音も限られるため、G管とB♭管両方を使うことによって響きを補うという目的もありました。
しかし、このことによりホルンが主題を奏でることが出来るようになったのです。
- MC
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演奏会の幕開けは、モーツァルト作曲「交響曲第25番ト短調」より、第1楽章をお届けしました。
曲名を知らなくても、出だしの何秒かを聴いて「この曲聴いたことがある!」と感じる方も多いのではないでしょうか。
この曲は、1984年に製作された映画『アマデウス』で使われました。「アマデウス」とは「神に愛される」という意味で、モーツァルトのミドルネームでもあります。「モーツァルトの才能を妬み殺害した」と語る、年老いた宮廷音楽家サリエリ。
映画の冒頭、自殺を図って血だらけになったサリエリが登場するショッキングなシーンで、大音量で鳴り響く音楽が「交響曲第25番」です。映画が公開されると、この曲は一気に大ブレイクしました。
その他にも、モーツァルトの様々な作品が数多く使用されていて、それまであまり知られていなかった「フィガロの結婚」や「魔笛」なども、当時大ブームを巻き起こしたそうです。
映画「さよならをもう一度」よりブラームス:交響曲第3番ヘ長調 作品90より 第3楽章
ヨハネス・ブラームスの交響曲第3番はブラームスの交響曲の中では演奏時間が最も短く、新鮮かつ明快な曲想で知られています。
交響曲第2番から6年後の1883年5月、ブラームスは温泉地として知られるドイツの都市ヴィースバーデンに滞在し、交響曲第3番をこの地で作曲しました。
そこでの、友人達との親交や、とりわけ若いアルト歌手ヘルミーネとの恋愛感情がこの曲に影響を及ぼしたともいわれています。
本日演奏する第3楽章は三部形式からなり、木管のくぐもったような響きの上に、チェロが憂愁と憧憬を湛えた旋律を奏でます。中間部は変イ長調で、木管の柔らかな表情がたゆたうように流れます。主部の旋律はホルンによって再現され、最後は内に熱いものを秘めながらも静かに音を閉じます。
- MC
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『さよならをもう一度』は、パリを舞台としたラブストーリーです。
トラック販売会社の重役ロジェと、インテリアデザイナーのポーラは、共に自立した大人の恋を楽しんでいました。5年間良い関係を築き、もちろん愛し合ってもいます。ところが何故か結婚へ踏み切れない。
そんな二人の前に現れた青年フィリップがポーラに恋をし、彼女を音楽会に誘います。そしてやがて、フィリップとポーラは同棲生活をすることになります。
そんな中ロジェは、ポーラへ自分の愛を改めて告白します。そして二人は再び結ばれ結婚するという、大人のラブロマンスです。ブラームスの交響曲第3番 第3楽章は、フィリップがポーラを誘った音楽会で演奏されました。
映画「未完成交響楽」よりシューベルト:交響曲第7番ロ短調 D759「未完成」より 第1楽章
交響曲第7番ロ短調 D759「未完成」はオーストリアの作曲家フランツ・シューベルトが1822年に作曲した未完の交響曲です。
シューベルトの代表作のひとつであり、ベートーヴェンの「運命」・ドヴォルザークの「新世界」と並んで三大交響曲と呼ばれるなど、大変人気がある曲です。
交響曲は通常4つの楽章から構成されます。
シューベルトも当初はそのようなものを構想していたであろうと考えられますが、この曲では第2楽章まで完成させ、スケルツォ(第3楽章)のスケッチをほぼ仕上げたところで作曲を中止してしまったため、第2楽章までしかない未完成交響曲となってしまいました。
このように音楽作品を完成させないまま放棄するということはシューベルトの他の作品にも頻繁に見られるため、「未完成」であることにそれほど深い意味はないだろうという説もあります。
- MC
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第1部の最後に取り上げた映画は『未完成交響楽』です。
今から約80年前に製作されたこの映画は、シューベルトと彼の失恋を題材に、「交響曲第7番」の誕生秘話を描いています。ある時シューベルトは、ハンガリーのエステルハージー伯爵から、姪のカロリーネの音楽の家庭教師に招かれます。
日が経つにつれ、二人の間に恋が芽生えるのですが、伯爵は二人の恋を許さずシューベルトをクビにします。
それから数か月後、カロリーネは親の決めた相手と結婚することに。結婚式では、シューベルトが完成した「ロ短調交響楽」を弾くのですが、演奏中、カロリーネは心の痛みに耐えかねて失神してしまいます。
シューベルトは、譜面の残り数ページを破り取り、その余白にこう書き記しました。
『私の恋が未完であるように、この曲もまた未完成である』と。
第2部「クラシックな映画音楽」
映画「オペラ座の怪人」よりA.L.ウェバー(カスター編):オペラ座の怪人 セレクション
『オペラ座の怪人』は、フランスの作家ガストン・ルルーによって1910年に発表された小説です。
これを原作として様々なジャンルで取り上げられていますが、映画作品だけでみても、原作に忠実なものからアレンジを加えたものまで数多くの作品が作られました。
近年では、2004年ジョエル・シュマッカーの監督による作品が公開されましたが、これはそれまでの映像化作品と異なり、アンドリュー・L・ウェバー版のミュージカルがベースになっています。
日本でも同版のミュージカルが上演されていることもあり、話題になったことは記憶に新しいかと思います。
本日の演奏会でも、皆様に馴染んでいるであろうウェバ作曲によるものを取り上げました。ミュージカルの臨場感を楽しんでいただければ幸いです。
- MC
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第2部はがらりと雰囲気を変え、すばらしい音楽を生み出したミュージカル映画を取り上げました。まずは『オペラ座の怪人』です。
舞台は19世紀、パリのオペラ座。オペラ座の地下には謎の怪人が住み着いています。
怪人は、高い給与や良い座席を要求するばかりでなく、キャスティングにまで口を出していました。
この要求に従うことは支配人が変わるたびに引き継がれてきましたが、新しい支配人はこのことが理解できずに、怪人の要求を無視します。
そのためにシャンデリアが落ちて犠牲者が出るなど、様々な悲劇が起きてしまいます。そんな怪人に見初められたのが、コーラスガールのクリスティーヌ。
クリスティーヌは、姿を見せない怪人のレッスンでめきめきと実力を付けて、初出演のステージでは喝采を浴び、幼馴染のラウルとも再会、婚約します。
その喜びも束の間、ドンファンで主役を演じているクリスティーヌのもとへ怪人が相手役に成りすまし、舞台上の彼女をさらってしまいます。
そしてラウルは消えたクリスティーヌを追うのですが…結末は映画でお楽しみください。
映画「サウンド・オブ・ミュージック」よりR.ロジャース(ベネット編):サウンド・オブ・ミュージック セレクション
『サウンド・オブ・ミュージック』、元々はマリア・トラップ(1905-1987)による自叙伝『トラップ・ファミリー合唱団物語』が原作となっています。
戦争中の様々な体験ののち、マリアは家族の歴史や出来事を綴った著書を次々と出版しベストセラーになりますが、1956年にドイツの映画会社が作品の映像化の権利を、その後アメリカの制作会社が舞台化権を得るなどしたため、マリア一家はそれらの作品による恩恵を受けることはありませんでした。
また、基本的なストーリー以外の部分が大きく変更され、特に1947年に亡くなったトラップ大佐の人物像などの描写については、マリア一家が修正を要請したものの受け入れられず、ショックを受けていたと言われています。
ミュージカル映画は1965年に公開されましたが、現在においてもミュージカル映画の最高傑作の一つと言われています。
- MC
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『サウンド・オブ・ミュージック』の舞台は、第2次世界大戦前のオーストリア、ザルツブルグ。
修道女マリアは、男手ひとつで7人の子供たちを育てているオーストリアの軍人・トラップ大佐の家に、家庭教師として赴任します。
厳格な父親のもとで育った7人の子供たちに手を焼かされるマリアでしたが、雷の夜、子供たちの心をつかみ始めます。
そして彼女の温かい人柄と、音楽を用いた教育法で、子供たちはマリアのことが好きになっていきます。ある日のパーティーで、トラップ大佐に心を惹かれていることに気付いたマリアは、家をそっと抜け出し、修道院に戻ってしまいます。
修道院長に励まされトラップ家に戻ったマリアは、大佐の心もつかみ結婚することに。
新婚旅行から帰ると、トラップ大佐へ召集令状が届いていました。 ナチスドイツのオーストリア併合に反対するトラップ大佐は、亡命を決意します。
そして一家は音楽コンクールに出て、発表の間にこっそりと会場を抜け出し、アルプスの国境を越える――というところで、この物語は幕を閉じます。さてこの作品、映画でご覧になった方も多いと思いますが、実は映画よりも先に、ブロードウェイのミュージカルで上演されました。
今回の編曲では、映画では削られてしまったミュージカルナンバーも組み込まれています。
映画「ウエストサイド物語」よりL.バーンスタイン(ペレス編):「ウエストサイドストーリー」序曲
『ウエストサイド物語』は、ジェローム・ロビンズの原案を、レナード・バーンスタインの音楽とスティーヴン・ソンドハイムの歌詞でブロードウェイミュージカル化された作品で、1957年に初演されました。
シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』に着想し、当時のニューヨークの社会的背景を織り込みつつ、2つの少年ギャング団の抗争の犠牲となる若い男女の2日間の恋と死を描いたストーリーです。
1961年にロバート・ワイズとジェローム・ロビンスの監督で映画化されると、批評家・観衆からの絶大な支持を得て、その都市のアメリカ国内第2位の興行成績となりました。(第1位は、アニメ映画『101匹わんちゃん』)
アカデミー賞では作品賞をはじめ、ノミネートされた11部門中10部門を受賞。また、映画のサウンドトラック・アルバムも空前の売り上げとなりました。
日本でも1961年12月23日に封切、以降509日間にわたりロングラン上映されるなど、人気を博しました。
- MC
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最後は『ウエストサイドストーリー』。この作品は、現代アメリカ版『ロミオとジュリエット』として作られました。
時は1950年代ごろ、場所はニューヨーク・マンハッタンのウエストサイド。
白人系の“ジェット団”とプエルトリカンの“シャーク団”という二つの不良グループが対立していました。ジェット団を立ち上げたが今は真面目に働くトニーと、シャーク団のリーダー・ベルナルドの妹であるマリアは、体育館のダンスパーティーで出会い、お互いに一目惚れをしてしまいます。
しかし、ジェット団とシャーク団と決闘に巻き込まれたトニーは、誤ってマリアの兄であるベルナルドをナイフで刺し殺してしまいます。
ジェット団とシャーク団の激しい対立の末、トニーは拳銃で撃たれ、マリアの腕の中で息を引き取ります。
マリアはスペイン語で『大好きよ、アントン(=トニー)』と つぶやきます。そして皆に拳銃を向けて『ベルナルドとトニーを殺したのは皆だ!』と叫ぶのでした。