第26回 相模原市民合同演奏会

チャイコフスキー バレエ音楽「白鳥の湖」 作品20

「くるみ割り人形」「眠りの森の美女」と並んで「世界3大バレエ」と呼ばれる「白鳥の湖」は、チャイコフスキーが最初に作曲したバレエ音楽で、1877年2月20日ボリショイ劇場で初演されました。
それまでの、単なるバレエのための伴奏としてのものから本格的な交響的な音楽へ発展する契機となりましたが、初演は踊り手、指揮者に恵まれず不評でした。
その後作曲者の書斎に埋もれていましたが、バレエ振付師プティパとその弟子イワノフによって改造がなされ、チャイコフスキーが亡くなった2年後に蘇演され好評を博しました。

ストーリーはドイツの作曲家ムゼウスによる童話「奪われたベール」を元に構想が練られていますが、初演以降、多くの演出家によって様々な版が作られたため、ストーリー、登場人物、曲順などはそれぞれでかなり異なったものとなっています。

演奏会では6曲からなる組曲が演奏されることも多いですが、本日は全曲版より抜粋してお送りいたします。

<導入部・序奏> モデラート・アッサイ

オデットが悪魔ロッドバルトによって白鳥に姿を変えられてしまう場面。
物悲しげなオーボエの独奏旋律が特に印象的。この主題は後に使われる「白鳥の主題」がチェロで反復され、さらにヴァイオリンが引き継いで次第に盛り上げる。
アレグロ・ノン・トロッポの中間部をはさんで開始動機が繰り返され、そのまま第一幕へと休みなく続く。

<第一幕> 王宮の前庭

  1. 情景

    城の庭園で、王子ジークフリートの成人式のパーティーが開かれている。成人式にふさわしい音楽で、その17小節目で幕が上がる。

    城の世継ぎジークフリート王子の成年を祝っている。Allegro guistoに入ると間もなく家庭教師ヴォルフガングが王子に従って登場。ベンノや学友たち、それに村の若者や娘たちが王子に祝いの言葉を述べる。
    中間部で空虚五度のバスを持つミュゼット風の田舎踊りがオーボエに現れて、村娘と若者たちの踊りが繰り広げられ、音楽が冒頭に戻って力強く奏されると、賑やかな宴が始まる。

  2. ワルツ

    王子の求めで村娘たちが踊る群舞(コール・ド・バレエ)である。
    弦楽器によるピッツィカートに伴った14小節の前奏に続き、イ長調のワルツのリズムに乗って弦楽器が素朴で優美な旋律をうたい始める。
    有名なワルツで、スケールも大きく、型通りの三部分形式で行われる。
    中間部はヘ長調で優美に奏され、再びイ長調に戻って結ぶ。

<第二幕> 静かな湖のほとり

  1. 白鳥たちの踊り

    ここは全体は7曲から構成されており、白鳥たちによる独部(パ・ド・スル)や群舞などの踊りが繰り広げられる。
    今回演奏する4曲目のアレグロ・モデラートはプティパ=イワノフ版で「四羽の白鳥たちの踊り」と名付けられて有名になったもので、嬰ハ短調、四分の四拍子である。
    ファゴットのムルキーバスを伴奏にオーボエと二重奏がなされ、哀愁を帯びた軽妙な主題を繰り返す。

  2. 情景

    この曲は第二幕のラストである。
    夜が明け始め、娘たちは再び白鳥に戻る。王子はオデットに永遠の愛を誓い、オデットはこの王子こそ、自分たちを救ってくれる若者だと信じる。二人は舞踏会での再会を約束して別れを告げる。
    白鳥の主題がオーボエに現れ、ついで悪魔の動機が荒々しく和音で奏され、白鳥たちは湖に戻る。
    第二幕第10曲がそのまま再現されるのだが、この幕の詩的な雰囲気や物語の劇的展開に大いに意義があるといえる。

<第三幕> 王宮の舞踏会

  1. 情景

    王妃が王子にどの娘が気に入ったかと尋ねる場面。弦楽器のピッツィカートに乗ってオーボエとフルートがこれを示す。

    王子はオデットへの愛の想いで心はいっぱいで王妃の言葉も聞こえない。
    そこへ突然トランペットとトロンボーンがファンファーレを奏し、黒鳥の騎士に身を変えた悪魔ロッドバルトが足早に娘オディールを連れて登場する。
    オディールは白鳥の主題の変奏で、その性格的なものを暗示する。オディールがオデットにとてもよく似ているということを音楽的描写で示していて、王子はこの姿に騙されてしまうのである。

  2. スペインの踊り

    ボレロのリズムにタンブリンやカスタネットも加わったエキゾチックな舞曲。
    後半はテンポを速めて、華やかなうちに終わる。

  3. ナポリの踊り

    四小節の序奏からコルネットが軽快なカンツォネッタを奏する。
    後半はプレストのタランテラ舞曲となる。

  4. ハンガリーの踊り(チャルダーシュ)

    短く激しい序奏に続いて、哀愁を漂わせた緩やかな旋律がヴァイオリンでうたわれるが、やがて一転して急速に荒っぽい舞曲となる。

<第四幕> もとの湖のほとり

  1. 情景・終曲

    雄大で悲壮感に満ちた旋律で王子の登場を描き、ハープのアルペッジョで終わる。
    アレグロ・アジタートになりオーボエがせき込むように白鳥の主題を奏し、王子がオデットに自分の意思の弱さを詫び、許しを請う。
    オデットは王子を許し、二人は抱き合う。そこへ悪魔ロッドバルトが現れるが、白鳥の主題が無限の悲壮感をたたえて奏され、ロッドバルトにとどめを刺す。オデットと王子は押し寄せる大波に巻き込まれ、湖に沈む。
    モデラート・マエストーソで金管楽器が白鳥の主題を力強く情熱的に奏し、二人の死を超えた愛の力が悪魔を征服したことを暗示する。モデラートの終結部は、高弦のトレモロにハープが下降的対位旋律を奏し、管弦楽の和音の全奏で終わる。
    オデットと王子の魂は、白鳥たちに見守られて昇天する。

* 参考文献:音楽の友社「最新名曲解説全集」

モーツァルト「レクイエム」 KV626

モーツァルトの絶筆となった「レクイエム」の成立にはさまざまな説があり、ミステリアスなエピソードも多い。

この作曲依頼は注文主の名を告げずに使者からの手紙を通じてもたらされた。
注文主はウィーンのシュトゥパハ伯爵であり、夫人を失った際にモーツァルトに依頼したもの(この説が有力)だとか、はたまた映画「アマデウス」では、モーツァルトのライバルであった作曲家のサリエリが依頼主であるとかさまざまであるが、モーツァルトのこの頃の手紙(これも信憑性を疑われているが)には依頼主が分からないことや自らの死とレクイエムの作曲をダブらせる記述もあり、当時すでに健康状態が悪かったモーツァルトが深い衝動を持ってこの作曲に当たったことが想像される。

何かに急き立てられるかのように死の前日まで作曲を続けたにも関わらず、結局未完に終わったが、妻コンスタンツェはすでに代金の半額をもらっていたので、何としてでもこのレクイエムを完成させなければならなかった。
そこで何人かの作曲家に完成を依頼した末、結局モーツァルトの弟子であったジェスマイヤに託されることになった。

彼はモーツァルトの死の直前まで、完成のための指示をいくつか受けていたらしい。
モーツァルトが書き残したのは、最初の「Introitus」と「Kyrie」の全部とそれに続く「Dies irae」「Tuba mirum」「Rex tremendae」「Confutatis」「Lacrimosa の8小節」まで、「Domime Jesu」「Hostias」の音楽の骨組みであった。
これに対してジェスマイヤは「Dies irae」以降の曲の捕作完成ならびに、「Lacrimosaの9小節以降」と「Sanctus」「Benedictus」「Agnus Dei」の新たな作曲、そして終曲「Communio」の歌詞を冒頭のIntroitus、Kyrieの旋律を引用して全曲を完成させた。

実は上記以外にもモーツァルトは「Lacrimosa」の最後に置くべく「Amen」のフーガの断片を残しているが、全体が分かるほどの内容ではなかったためジェスマイヤはあえてこれを引用しなかったが、もしモーツァルトが完成していたらどんな凄い「Amen」になっていたかと思うと残念でならない。

1. 入祭唱 (Introitus)

フーガの前奏に続いて Requiem の歌詞が歌われる。
その後は歌詞の内容に沿って音楽が変化し、ソプラノの独唱をはさみ、さらに音楽の変化が多彩になっていく。

2. キリエ (Kyrie)

前曲から切れ目なく演奏される。
バスに引き続き各パートにKyrieの歌詞が次々と現れるフーガ形式で、「Kyrie eleison」(主よあわれみたまえ)と「Christe eleison」(キリストよあわれみたまえ)が絡み合う。

3. 続唱 (Sequenz)

6曲から構成されている。

  1. 怒りの日 (Dies irae)

    ヴェルディのレクイエムほど激しい「怒りの日」ではないが、オーケストラ伴奏の細かな動きや転調による変化などで劇的な雰囲気を出している。

  2. 不思議なラッパの響き (Tuba mirum)

    トロンボーンに続きバスの独唱が歌い始める。前曲の忙しさから一転、落ち着いた雰囲気になる。
    テノール、アルト、ソプラノの独唱が登場し、美しい四重奏に発展する。

  3. 恐るべきみいずの大王 (Rex tremendae)

    オーケストラの音階的な動きと合唱が呼応した印象的な曲である。

  4. 思い出したまえ (Recordare)

    美しいオーケストラのカノンの前奏に導かれ独唱による四重奏となる。
    祈りに満ちた穏やかな美しさが全曲を支配している。

  5. 呪われたもの (Confutatis)

    不気味な低弦部の伴奏に伴われ、男声合唱が力強く歌い始める。
    これに対し、天国的な美しい旋律で女声合唱が呼応する。
    対比が印象的である。

  6. 涙の日 (Lacrimosa)

    この曲の最初8小節がモーツァルトの絶筆となった。
    一音一音を慈しむような絶え間なく続くオーケストラの音形に、本当に美しい旋律が合唱によって歌われる。
    最後は「Amen」で結ばれるが、前述したようにこの「Amen」は本来は壮大なフーガになるはずだった。

4. 奉献唱 (Offertorium)

2曲から構成されている。

  1. 主イエス・キリスト (Domine Jesu)

    合唱のフーガが歌われた後、独唱のカノンが歌われる。
    最後は合唱によるフーガで締めくくられる。

  2. 賛美の生け贄と祈り (Hostias)

    和声が際立つ美しさに満ちた祈りの曲である。
    最初は明るい雰囲気だが、しだいに様子が変化し、前曲の最後のフーガが繰り返される。

5. 聖なるかな (Sanctus)

壮大な賛美の歌である。
後半のHosannaの部分は見事なフーガとなる。

6. 祝福されますように (Benedictus)

アルト・独唱がやさしく歌い始めると、後半は前曲のHosannaのフーガが少し形を変えて繰り返される。

7. 神の子羊 (Agnus Dai)

これも和声が美しい合唱曲で、全体に敬虔な雰囲気が漂っている。

8. 聖体拝領唱 (Communio)

前述したが、冒頭の Introitus、Kyrie の旋律を転用しているが、この構成はモーツァルトの意思であったとされている。

pagetop
inserted by FC2 system