新企画! 市民プロムナードコンサート

曲目をめぐって

H17promパンフレット18世紀から19世紀にかけては、ハイドンやモーツァルト、ベートーヴェンが登場し、クラシック音楽の基礎(古典派音楽)がつくられた時代です。
同時にドイツ・オーストリアを中心に、隣接するフランスやイタリアが、常にクラシック音楽の先端を進むこととなります。

対して、スカンジナビア諸国や中央ヨーロッパ、ロシア、イギリスといった「周辺国」の音楽には、「本場」ドイツ・オーストリアの単なる受身ではなく、むしろその文化からの脱却が図られた所に特徴があります。
例えば、ドボルジャークやスメタナ(チェコ)、そして本日演奏されるシベリウス(フィンランド)やグリーグ(ノルウェー)といった作曲家は、中心国ドイツ・オーストリアで作曲技法を学びつつも、自国の文化的伝統を自らの曲の中に投影する手法を身につけていきました。

本日は、そうした中心国の作曲家と、周辺国の作曲家の作品をお聴きいただきます。
同じ「クラシック音楽」でもドイツとそれ以外の国とでは、微妙ながらも大きな違いがあることを実感できるでしょう。

シベリウス:交響詩「フィンランディア」

シベリウスは、フィンランドの首都ヘルシンキ近郊で生まれました。26歳でベルリンに留学します。
当時のベルリンではリヒャルト・シュトラウスが活躍しており、その大規模でダイナミックな音楽に影響を受けたシベリウスは、スケールの大きな曲を―特に交響曲で―作曲するようになります。

この時代には、ストラヴィンスキーに代表されるような、前衛的な芸術思想を持つ作曲家が活躍していましたが、彼らと一線を画したシベリウスの音楽には、壮大なスケールの中、フィンランドの自然や、そこに息づく神話や歴史にインスピレーションを受けた「澄み切った音」に特徴があります。

曲は重苦しい金管楽器のコラールから始まり、会場全体に緊迫感が漂います。
しばらくして、後に「フィンランディア賛歌」として歌われるようになった美しいメロディが流れますが、その歌を包み込むような弦楽器のトレモロ(細かな音の刻み)が印象的です。
深々と降り続けるフィンランドの雪を想像せずにはいられません。

なお、シベリウスの音楽の特徴である「音による自然の描写」は、その後作られた曲でも如何なく発揮され、「湖面を飛び立つ白鳥の群れ」を描いた『交響曲第5番』で最高潮に達します。お勧めの1曲です。

グリーグ:劇音楽「ペール・ギュント」より

グリーグはノルウェー第2の都市、ベルゲンに生まれました。10代後半でライプチヒに留学し、ここで作曲法とピアノ奏法を学びます。
彼の音楽は―自身の生活がそうであったように―幸福感に満ち溢れ、ノルウェーの豊かな自然を髣髴とさせる深い味わいが特徴的です。

詩劇「ペール・ギュント」は、ノルウェーの文豪イプセン[1828-1906]が書いた、世界中を旅する冒険物語です(カルフォルニアの鉱山にも行く!!)。
グリーグはイプセンから、上演のための付随音楽(現代風だとサウンドトラック)を依頼されます。一度は断るものの、金銭的な理由と、民族的な題材をテーマにした音楽を作曲することへの意欲から、結局は引き受けました。

行く先々の情景が描き出され、全部で26曲にもなる長大なこの音楽は、ノルウェーの民族音楽から深い影響を受けています。
それは1曲目「朝」の冒頭が、ノルウェーの民族楽器「ハルダンゲル・フィドル」の弦を端からつま弾いた時の旋律から始まっていることからもうかがえます。
本日演奏される曲目は、「」「山の魔王の宮殿で」「オーゼの死」「アラビアの踊り」「ペール・ギュントの帰郷」そして「ソルヴェイグの歌」です。

ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調「運命」

クラシック音楽の歴史は、この曲を抜きにして語ることはできません。
「暗闇を超えて光へ」というこの曲のモチーフは、その後の作曲家に大きな影響を与えました。本日演奏される「フィンランディア」にもこのモチーフが引き継がれています。

この曲は、非常に考え抜かれて構成されています。
冒頭の4つの音=運命の動機―余談ながら、モールス信号で「勝利(Victory)」を表す‘V’はこのリズムを採用している―は、単なるリズムにとどまらず、曲が進むにつれ様々に形を変えて現れます。それにより、この交響曲があたかも一つの主題を持った物語であるかのような感覚を与えてくれます。
そして、抑圧された雰囲気の漂う3楽章と、連続して演奏される開放的な4楽章との劇的な対比。さらに、暗い短調で始まりつつも、明るい長調でフィナーレを迎えるという全体構成。
こうして綿密に作り上げられた曲は、彼が伝えたい明確な「言葉」となって演奏されます。

ベートーヴェンは自らの交響曲の中で、人間の道徳心や精神と対話することを追い求めました。
彼の終生を賭したテーマ「人類愛」は、第9交響曲の「このくちづけを世界のすべてに」という歌詞にも見られ、私たちは彼の曲に接することでその世界に触れることができます。

「運命」が200年にわたり受け継がれているのは、彼のメッセージが、あらゆる人々に届いているからに違いありません。

pagetop
inserted by FC2 system