第24回 定期演奏会

J. シュトラウス2世:喜歌劇「こうもり」序曲

24th定期パンフレットJ. シュトラウス2世(1825-1899)は「ワルツ王」としてとても有名ですが、オペレッタ作品も20近くあり、特にこの喜歌劇「こうもり」は人気作品となっています。

「こうもり」の名前は、この喜歌劇の主人公アイゼンシュタインの友人ファルケ博士のあだ名からきています。

アイゼンシュタイン男爵は、役人を侮辱した罪により禁固刑を受ける事になった。
その晩、アイゼンシュタインは友人のファルケ博士にすすめられて、仮装舞踏会にルナール伯爵と言う偽名で出席する事になった。

彼が出ていくと、彼の妻ロザリンダの元へ彼女の昔の恋人が忍び込む。
ちょうどそこへアイゼンシュタインを捕まえに監獄守フランクがやってきて、アイゼンシュタインと間違えてロザリンダの元恋人を拘束して連れていってしまう。
そして、妻ロザリンダ、侍女アデーレ、さらに監獄守のフランクまでが、それぞれ偽名、偽位を使って仮面舞踏会に出席してしまう。
お互い変装した状態のまま色事の取引が始まるのだが、当然の如くごたごたを引き起こし、」この騒ぎは監獄の中にまで波及していく…。

実はこの騒ぎは、ファルケ博士の計略に皆が乗って起こされた騒ぎだったのである。
というのも、かつてアイゼンシュタインが悪戯のつもりで、舞踏会の帰りに酔い潰れて寝てしまった友人のファルケ博士を“こうもり”の仮装のまま市街の公園に置き去りにしてしまったことがあった。
ファルケ博士は大勢の人から嘲笑され、人々から“こうもり博士”と呼ばれるようになってしまった。
そのため、アイゼンシュタイン男爵に復讐すべく、ファルケ博士はこの計画を立てたのである。

今回演奏される「序曲」は、喜歌劇の幕が上がる前に演奏される曲です。
第2幕の終盤の舞踏会で踊られる有名なワルツを始めとして、途中、オーボエによって歌われるアイゼンシュタイン夫人の哀歌など劇中の主立った場面の旋律が次々に現れます。
賑やかかつ美しい曲で、管弦楽曲として独立して演奏されることも多い曲です。

モーツァルト:
ピアノと管弦楽のための協奏曲 第21番ハ長調 K.467

「ところで、予約演奏会のためのピアノ協奏曲がまだ2曲必要です。
これらの協奏曲は、難しくもなく、やさしくもない中程度のもので、ちょうど手ごろな作品です。
大変に華麗で耳に快く響きますが、けっしてつまらないものではありません。
あちこちに音楽通だけが満足をおぼえるようなパッセージがありますが、それは音楽通でない人たちも、どうしてだかはわからないにしても、喜びを感じないではいられないような曲になっています(1782年12月28日付)。」

これは、モーツァルト自身が語った言葉です。
1781年のクレメンティとのピアノの試合の結果からもわかるように、モーツァルトは当時ピアノの名手でした。
その折、モーツァルトがクレメンティのことを「機械のような男」と悪評し、「全ての音符を書かれている通り正確に、固有の表情と味わいを持って弾かなければなりません…」と述べたとされていますが、18世紀末、ピアノという楽器がまだ進化の過程にあって、そのピアノ音楽の役割や可能性を更に押し広げたことを考えると、19世紀以降の作曲家たちに与ええた影響や功績は比類のないものと言えます。

1782年結婚し、ウィーンで独立した音楽家として活動するころから、父レオポルドの亡くなるまでのおよそ6年間はモーツァルトにとって実りの多い時期で、「フィガロの結婚」、「ドン・ジョバンニ」、交響曲35.36.38番、協奏曲15曲などたくさんの名曲が生まれています。
このピアノ協奏曲第21番が生まれたのが1785年であり、まさに順風満帆の時代でありました。

モーツァルトは生活の糧として、作曲・演奏・レッスン等をしていましたが、特にピアノ協奏曲の作曲と演奏にかけては、他の追随を許しません。
彼の新作は予約演奏会という形で発表され、ここには耳の肥えた貴族や富裕市民が聴衆として訪れました。
この予約演奏会というのは、第2.3.4水曜日に開催され、3回で6フロリーン(約18,000円)を事前に支払うというものでした。
今回演奏される最高傑作の一つといわれるピアノ協奏曲第21番も完成したのは1785年3月9日で、その翌日にモーツァルト自身によって、ウィーンのブルク劇場における予約演奏会で初演され、多くの聴取から喝采を受けたといわれています。

この作品は、明るくはっきりとした第1楽章、映画「みじかくも美しく燃え」で取り上げられたことで有名な甘美に満ちた第2楽章、そして軽やかなロンドフィナーレの第3楽章からなり、旧来の協奏曲の域を脱し、交響的統一体としての内容を備え、充実した編成で巧妙なオーケストレーションを展開します。

ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調

ブラームス(1833-1897)やJ.シュトラウス(1825-1899)たちと同時代に生き、ワグナー(1813-1883)に敬意を表していたブルックナー(1824-1896)は、はじめは教会のオルガニストを生業としており、ミサ曲等の作品も数曲あります。
交響曲は習作的な2曲と、晩年の未完の9番を含め11曲で、後述のように複数の版を持つ曲が多く、解釈上の問題がよくとり沙汰されるので有名です。
また、新曲の試演で楽団からは演奏不可能と言われたり、アンチ・ワグナー派の批評家ハンスリックから作曲技法などを批判されたりもしました。
しかし年代が進むにつれ、ブルックナーの個性や先進性、作品に込められた精神性といったものも次第に理解されていったのです。

当楽団ではブルックナーは10年以上前から演奏候補として挙がっていましたが、団内の認知度や演奏時間が総じて長いなどの理由で演奏機会を逸してきました。
また、常任指揮者である田代先生からも、ブルックナーの演奏にあたっては演奏者が信仰心を持って演奏しなければ意味が無いと言われ、定期演奏会で採り上げるにはこれまで敷居が高かったことは事実です。
今回、演奏にあたっては「信仰心を持って」というこの言葉を強く意識して演奏に挑みたいと思います。

交響曲における「版」などの問題……第4番は、作曲過程で大きく第1稿(1874年)と第2稿(1878/80年)に分けられ、第2稿は数回の大きな改訂を経て完成、出版されたもので、通常はこちらを演奏します(1881年ウィーンで初演)。
また、いわゆる「改訂版」というものが各交響曲にあり、作曲者の弟子や指揮者たちが、当時の演奏スタイルや聴衆の好みに合わせるような形で随所を改変して演奏していました。

しかし、ブルックナーの研究者として名高いロバート・ハースは作曲者が本来意図した音楽に沿うよう編纂し直し、原典版(ハース版)として1936年に出版しました。
日本でも馴染み深い指揮者、故カール・ベームはドレスデン国立歌劇場総監督時代にいち早くこの版で演奏し、その録音(CD)も現存します。
戦後1953年にはレオポルト・ノヴァークにより、新たな情報を基に校訂されたいわゆる「ノヴァーク版」が出版されました。

セント・フロリアン教会
ブルックナーがオルガニストとして奉職した セント・フロリアン教会

第1楽章:躍動的に、速過ぎず
弦楽器のトレモロ(刻み)による混沌とした感じの、いわゆる「ブルックナー開始」で始まります。
ブルックナー自身が、一日のはじまりを告げる信号といったソロ・ホルンによる第1テーマが奏され、木管楽器が加わった後1小節に5つの音からなる音型が続きます。
更に金管楽器群が加わり、この曲の内に秘めたるエネルギーがもたらす壮大なパワーを感じさせます。
これらのモチーフは全曲を通して支配的であり、他の楽章でも形を変えて現れます。
第2楽章:アンダンテ
緩序楽章ですが滞ることなく曲は進みます。
短い導入形の後にチェロによる葬送行進曲風テーマが続き、木管がそのテーマを引き継ぎます。
この後、この曲を特徴付ける部分が現れますが、それは普段内声を受け持つヴィオラが独奏楽器として、独特なメロディーラインを受け持つことです。
歌謡的とは言い難いそのフレーズは、心の内を訴えるかのような抑揚を持ち、ブルックナー音楽の特異性とともに先進性をも感じさせます。
コーダは金管によるクライマックスの後、ティンパニの連打音に続く葬送的な音型を伴って、ホルン、ヴィオラ、クラリネットの回想的なフレーズが続き、静寂の内に消えるように終わります。
第3楽章:スケルツォ~躍動的に/トリオ~速過ぎず、決して引きずらないで
ブルックナーの音楽は「聖」なるものと「俗」なるものとがよく対比されます。
「聖」なる部分の精神的な深遠さには、演奏者、聴衆共に心惹かれるものがありますが、この楽章は全体的に「俗」なる」方の音楽であり、最初のホルン、トランペット、トゥッティと続く「狩りのテーマ」が構成上の中心を成し、遠近感、躍動感のある解放された描写を楽しめます。
トリオは狩りの後の寛いだ雰囲気とともに、軽やかなダンスを楽しんでいる光景が感じられます。
第4楽章:フィナーレ~躍動的に、しかし速過ぎず
演奏時間に於いても内容に於いても他の楽章をしのぐ、フィナーレに相応しい規模を持ちます。
高揚する山の部分と深い思索にふける谷の部分、また、穏やかな、過去を回想する様な平原の如き部分が何度も訪れるのです。
この様な壮大な構成はブルックナーの交響曲作品の特徴と言えるでしょう。
フィナーレ冒頭の変形した主題が戻ってきた後、第1楽章のホルンのテーマが金管楽器群によって力強く奏されて全曲を結びます。
大きなエネルギーを内に秘め、時に確信をもってそれを具現させるブルックナー音楽には、非常な高みへと昇っていく神々しさを感じずにはいられません。
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