第16回 相模原市民合同演奏会
ヘンデル:オラトリオ「メサイア」
バッハと同じ1685年にドイツに生まれたヘンデルは、25歳の時にイギリスに渡り、その後帰化して生涯の3分の2をイギリスで過ごし、多くの作品を残した。
イギリスに渡ったヘンデルは、もっぱら歌劇の作曲に没頭し、歌劇場の経営などにも手を出したが、当時は宮廷的・貴族的な歌劇に対する反発が強く、ヘンデルの作品はあまり評価されなかった。
そこで、ヘンデルは歌劇に代わるもう一つの劇音楽オラトリオを作り始めた。
オラトリオとは、聖書から題材をとり、数名の独唱者と合唱、オーケストラで演奏される、舞台装置や演技を伴わない宗教的歌劇である。
オラトリオは題材が宗教的であるため歌劇よりも広くイギリス人に認められ、ヘンデルの名声はしだいに高まり、そしてこの「メサイア」でその名を不動のものとするのである。
1741年の春、ヘンデルはアイルランド総督の招きでダブリンを訪れ、新作依頼に応えてこの「メサイア」の作成にとりかかった。
この新作のテキストには、ヘンデルの友人チャールズ・ジェネンズが聖書の言葉からとったものを用いた。
ヘンデルは作曲中、全ての俗事を忘れ、食事もしないほどの熱中ぶりで、この大作をわずか3週間あまりで仕上げてしまった。
徹夜で「メサイア」を作曲しているヘンデルに、ボーイが早朝のコーヒーを運びに行くと、ヘンデルは悲しいアリアを涙をこぼしながら作曲していたという逸話も伝えられている。
翌1742年4月にダブリンで初演された「メサイア」は熱狂的な喝采を博し、その収益金はすべて慈善団体に寄贈された。
そして1750年以後孤児養育院の募金のために毎年演奏されるようになってから「メサイア」の人気は急上昇し、17年間に68回もの公演回数を記録した。
なお、これらの公演に際して、ヘンデルは歌い手や公演条件などを考慮してしばしば改訂を加えた結果、多くの版が残され、今日どれが真の決定版であるかを断定することは不可能になっている。
こうして歌劇でなかなか成功せず経済的にも肉体的にも苦しい状況にあったヘンデルは、このオラトリオ「メサイア」の最高の賛辞を受け、その後の運命を切り開き、音楽史上にその偉大なる名を残すこととなったのである。
かのハイドンも、「メサイア」のハレルヤ・コーラスを聴いて、思わず「かなたに神の栄光あらわれたり」と叫んで、その後オラトリオ「天地創造」を作曲したと伝えられている。
56歳で「メサイア」を作曲したヘンデルは、その後約10年の間、精力的にオラトリオを作り、数々の作品を世に出したが、高齢からくる肉体の衰えには勝てず、66歳で盲目となり、そしてその8年後の1759年自らオルガンを弾きながら「メサイア」を指揮中、発作に襲われ、その8日後に74年の生涯を閉じた。
「メサイア」、あるいは「メシア」というのは、ヘブライ語で「聖油を注がれたもの」という意味で、ギリシア語では「クリストス」にあたる。
すなわち「メサイア」とは、神から聖油を注がれ、人類を救うためこの世に降った救世主イエス・キリストのことである。
しかし、この「メサイア」はキリストの伝記として構成されているのではなく、キリストの生涯への賛歌という形で暗示的・抽象的に表現されている。
そのため、歌詞の大部分も旧約聖書からとり、具体的な人物名も登場させていない。
「メサイア」は宗教音楽ではあるが、教会音楽ではなく、もはや教会という場を超越した普遍性をもつ音楽なのである。
- 第1部「予言と降誕」
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最初に管弦楽で演奏される序曲(シンフォニア)は、第1部のみならず「メサイア」全曲の序と考えられ、ここではフランス風序曲の様式が用いられている。
第1部ではキリスト降誕の預言とその成就が語られ、全体として明るく穏やかな気分が支配している。
イザヤの予言に引き続き、清楚なオーケストラ曲(田園交響曲)をはさんでキリストの降誕が高らかに歌われる。 - 第2部「受難と贖罪(しょくざい)」
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キリストの受難(十字架で刑罰を受けた苦難)と贖罪(それによって人類の罪がつぐなわれたこと)を扱う第2部は、喜びと期待に満ちた第1部とは対照的に、劇的な緊張をはらみ、宗教的にも最も感動的な部分となっている。
構成的には第1部、第3部に比べて合唱が多いのが特徴で、前半ではキリストの受難、後半では、復活と福音の伝達が語られ、最後に有名な「ハレルヤ」が歌われる。
ロンドン初演に際して、国王ジョージ2世が思わず起立したと伝えられるこの曲で、力強く神を賛美して第2部が終わる。 - 第3部「再臨と未来の栄光」
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第2部がキリストの受難を悲痛な調子で歌い、全能の神に対する輝かしい賛美で終わったのに対し、第3部はキリストの再臨と永遠の命を思う静かな気分に満ちている。
終曲の合唱は父なる神と子なるキリストに対して賛美を捧げる荘厳な内容で、この世の終末に再臨するキリストによってもたらされる新しい天地の実現、永遠の勝利を確信して「メサイア」は幕を閉じる。
ヘンデル「救世主(メサイア)」ショー版(ノヴェロ社刊)使用
第1部「予言と降誕」
- 序曲
シンフォニア
- レシタティーフ(テノール)
慰めよ、汝ら我が民を慰めよ
- アリア(テノール)
もろもろの谷は高くせられ
- 合唱
かくて主の栄光あらわれ
- レシタティーフ(バス)
万軍の主かく言いたもう
- アリア(アルト)
されどその来たる日には
- 合唱
彼はレビの裔を潔め
- レシタティーフ(アルト)
見よ、おとめが身ごもって男の子を産む
- アリア(アルト)
良きおとずれをシオンに伝うる者よ
- レシタティーフ(バス)
見よ、暗きは地をおおい
- アリア(アルト)
暗きを歩める民は
- 合唱
ひとりのみどり子我らのために生まれたり
- 田園交響曲
シチリヤ牧歌
- レシタティーフ(ソプラノ)
羊飼たちが夜、野宿しながら
すると見よ、主の御使その傍らに立ち - レシタティーフ(ソプラノ)
御使は言った
- レシタティーフ(ソプラノ)
するとたちまち、おびただしい天の軍勢が現れ
- 合唱
いと高きところには栄光神にあれ
- アリア(ソプラノ)
大いに喜べ、シオンの娘よ
- 合唱
我がくびきは易く、我が荷は軽ければなり
第2部「受難と贖罪(しょくざい)」
- 合唱
見よ神の子羊
- アリア(アルト)
彼は侮られて人に捨てられ
- 合唱
まことに彼は我らが悩みを負い
- 合唱
その打たれし傷によりて
- 合唱
我らはみな羊のごとく迷いて
- レシタティーフ(テノール)
彼をみるものは
- 合唱
彼は神に拠りたのめり、されば神彼を助くべし
- レシタティーフ(テノール)
嘲りに心を打ち砕かれ
- アリア(テノール)
目を留めよ。よく見よ。
- レシタティーフ(テノール)
命ある者の地から断たれたことを
- アリア(テノール)
あなたの慈しみに生きる者に墓穴を見させず。
- 合唱
門よ、汝らのこうべをあげよ
- 合唱
主はみことばをたもう
- アリア(ソプラノ)
ああ美しきかな
- レシタティーフ(テノール)
天に坐するもの
- アリア(テノール)
汝くろがねの杖をもて彼らを打ちやぶり
- 合唱
ハレルヤ、全能の主、我らの神は統べしらすなり
第3部「再臨と未来の栄光」
- アリア(ソプラノ)
われ知る我を讀うものは生く
- 合唱
それ人によりて死の来たりしごとく
- レシタティーフ(バス)
見よ、われ汝らに奥義を告げん
- アリア(バス)
ラッパ鳴りて死人は朽ちぬものに蘇えり
- 合唱
屠られたまい、その血をもて神のため我らを讀いたまいし子羊こそ…アーメン